2012/06/16

花いばら

 
 愁いつつ岡にのぼれば花いばら(与謝蕪村)


蕪村59歳の作品です。












あれこれと思い悩みながら歩いて行った道の彼方
小高い丘を登りきった目前に、一面広がった花いばら・・・。

色彩豊かでロマン溢れる情景が目に浮かびます。


決して裕福な境遇ではなかった蕪村は、なにげない日常の
ささやかな風物の中に「抒情」を写しとる画家でもありました。

齢還暦を迎えようと言う彼は、何をこころにこの句を詠んだのでしょう。
何度読んでも青年の心象風景のように鮮やかに映りこんできます。


若き日の彷徨いは、それはそれでやり切れぬ重さを伴なって
その身を覆うものですが、
年を重ね、確固として信じて来た自分が
ひとたび、社会的な居場所や存在感が感じられないと思う時、
それはうつろいにとどまらず、気がつくと焦燥感や不安となって
深淵へ向かう鉛蔓のように、からみつき侵食してくるのかもしれません。


こころが萎えたり傷ついたりすると、人はどうしても
自分が生きる意味や
生きる価値、そこに存在する理由を求めてしまいます。

幾つであっても、何ものであっても、
ひとは、そこに”ある”だけで、ただそれだけで素晴らしいのに。


明日、この雨があがったら、あぜ道を抜けて
あの小高い丘まで行ってみようかなって思います。